長瀞火祭りインタビュー

「ただ“心願成就”を祈るのみ」火渡りに込められた真意に迫る

「紫燈大護摩・火渡荒行」修験者

仲田 順浩さん

秩父路に春を告げるお祭りとして、宝登山麓で行われる「長瀞火祭り」。このお祭りでメインとなる「火渡り」は真言宗の秘法・荒行の一つで、燃え上がる炎の上を裸足で歩き、開運厄除・宝福招来を祈願するものです。

修験者として、毎年「火渡り」を行っている品川寺の副住職・仲田 順浩さんにこの「火渡り」を分かりやすくお話しいただきました。

聞き手・文:武田真那実

山伏の修行である「修験道」を再現している

武田 「長瀞火祭り」では燃え盛る火の中を歩く「火渡荒行」や、大釜の熱湯を浴びる「湯加持(ゆかじ)」が行われますが、これらは何に由来するのでしょうか。

仲田さん もともと「長瀞火祭り」は真言宗の総本山・京都醍醐寺※1などで行われている「修験道(しゅげんどう)」の大変厳しい山伏(やまぶし)※2の修行に由来します。

「修験道」とは日本に古来からある山岳宗教※3と、仏教が混ざった教えです。この修験道の中に「紫燈護摩(さいとうごま)」というものがあります。紫燈護摩とは、野外で火を炊き、不動明王に悩みや願いを聞いてもらうことです。

武田 詳しく説明していただけますか。

仲田さん 一言で説明するのは難しいですが、山伏は修験道の修行をしに山に入っていきます。山伏は修行する場所を整えるため、斧を持って山に入り、木を切ります。その後、ひらけた場所の四方に弓を放って結界※4をし、修行する場「道場」をつくります。

これと同じように、「火祭り」でも、まず会場の広場に弓を放って結界を作り、「柴燈護摩」を行う場所を整えます。

武田 「火渡荒行」の前に行われている「弓を放つ」というのには深い意味があるんですね。

仲田さん 弓を放って結界をつくるというのは、弓が龍に代わり、龍神が四隅を守るということをあらわします。最後に刀で九字※5を切りながら厄を払うことで初めて道場が清められるのです。

道場が清められると火を焚いて、その炎の中に不動明王※6をお招きして、みなさんの悩みや願いを聞いてもらいます。これを「柴燈護摩」と言います。

 

武田 弓を放つことの他に、法螺貝(ほらがい)を吹いていたと思うんですが、これにも意味があるんですか。

 

仲田さん インドのお寺にはよく法螺貝が描かれているのですが、もともとは法螺貝の大きな音で願いを届けるという意味があります。

修験道の場合は、山に入って迷子にならないように合図の音にもなりますね。あと熊や鹿をよけるという”動物除け”の意味合いや、音によって邪気を払うという”厄除け”の意味など、いろいろな意味が込められています。

武田 ここからいよいよ、注目の「湯加持」や「火渡荒行」が始めるんですね。まず、「湯加持」について教えていただけますか。

仲田さん 「湯加持」は「火渡荒行」の前に行っています。もともと真言※7を唱えながら、心を仏の境地におき、仏と一体になることを「加持(かじ)」といいます。

「湯加持」は、大釜に入った熱湯を笹の葉で全身にかぶります。「熱湯をかぶっても熱くない」という姿を皆さんに見せ、仏と一体になっている、仏の世界にいることを体現しているんです。

 

武田 「火渡荒行」はどのとようなものなのでしょう?

仲田さん 不道明王は炎の中にいると言われています。そのため、護摩※8の火を焚いて、不道明王に降臨していただく。その後その炎で燃やした木の上を修験者(しゅげんじゃ)が裸足で渡ることが「火渡荒行」です。

武田 それにはどういう意味が込められているのですか。

仲田さん 護摩の炎は”智慧(ちえ)の炎”ともいわれており、私たちの煩悩や災難等を焼き清めてくれます。

それを我々修験者は、不動明王に開運厄除や宝福招来を祈願して、みなさんの願いが叶うようにお祈りしながら、渡っていきます。

 

武田 「湯加持」や「火渡荒行」で、熱さを感じることもあるんですか!?

仲田さん 仏の境地に達しているので、熱さは感じないということになります。ただ、本当のところは熱いと思うときもあれば、全く熱くないと感じるときもあって、その時によって違うんです。

すごく重傷なやけどを負うときもあれば、全くやけどをしなかったり。こればっかりは仏のみぞ知る……というところでしょうか。

毎年同じことをしていても違うので、自分でも理由は分からないですけど、やはり何かあるんでしょうね。

毎年変わらない気持ちで臨むのが一番いい

武田 「長瀞の火祭り」では、一般の方が火渡りできますよね。仲田さんはどのような役目を担っているのでしょうか。

仲田さん 一般の方には、護摩の火をしずめ、燃えているところを全て払ったところを歩いていただきます。私たちは、みなさんの背中に数珠をあてて「心願成就!」と言って、お客さんの厄除けや願いが叶うよう一心にお祈りをする「お加持」に徹します。

だいたい毎年、1000人ぐらいのお客さんのために祈っています。

武田 1000人も!火渡りするとき、 どんなお願いをすればよいでしょうか。

仲田さん みなさんが思うお願いをすればなんでもよいと思います。実際、亡くなった娘さんの写真を持って火渡りをするお母様や、友達の分もお願いしたいと言って、渡る方もいらっしゃいます。

みなさん、本当に色々な思いを持って渡っているので、我々も一生懸命、お加持に徹しています。

 

武田 まもなくお祭りの本番を迎えるにあたり、今年はどんな気持ちで臨みたいですか。

仲田さん 基本的にいつも通りの日々の繰り返しです。毎日お参りをして、毎日お掃除をして。ただ、いつも同じようにしているつもりでも、やはり「火渡荒行」が近づいてくると、心もちょっといつもと違うかなと思ったりもしますが、だからと言って気持ちを変えないことが、一番だと思っています。

武田 本日はありがとうございました! 当日も楽しみにしています。

仲田さん こちらこそありがとうございます。当日は寒くなるかもしれないので、ぜひ暖かい格好でお越しくださいね。

 

真言宗の総本山・京都醍醐寺で行われている「修験道」に由来する「長瀞火祭り」。その意味を理解するとことで、「湯加持」や「火渡荒行」の見方も変わるはず。

ぜひ一般の方向けの「火渡り」に参加して、不道明王に”心願成就”をお願いしてみてはいかがでしょうか。

《注釈》
1、京都醍醐寺:世界遺産にも登録されている、京都市伏見区にあるお寺。真言宗醍醐派の総本山。
2、山伏(やまぶし):修験道(しゅげんどう)の修行者。修験者とも言う。金剛づえ・ほら貝などを持ち、山にこもって修行する。
3、山岳宗教:山を霊的な存在と認め、山を信仰の対象とする宗教。
4、結界:一定の場所を区切り、その内側を護り浄めること。
5、九字:護身の秘法である九つの文字。「臨兵闘者皆陣列在前」の九つの字。
6、不動明王:密教や仏教で信仰される明王。火焔(かえん)の中にあり、怒りの表情で右手に剣・左手に縄を持つ。
7、真言:密教で真理を表す秘密の言葉。呪文的な語句。
8、護摩:護摩木を焚いて、不動明王などに祈ること。もともとはインドで古くから行われている祭祀法。

トップに戻る