出雲伊波比神社の流鏑馬まつりインタビュー

「恩返しをしたい」という想いで、最後の流鏑馬まつりに挑む

第一祭礼区(毛呂本郷)「口取り」役

櫻井 正徳さん

950年以上前から続く「出雲伊波比神社の流鏑馬まつり」。15歳前後の少年が「乗り子」になり、流鏑馬を奉納する伝統的なお祭りです。今回お話しを伺った櫻井さんは、「乗り子」のサポートや、馬のお世話をする「口取り」という役を担います。櫻井さん自身も、かつて「乗り子」を務め、その後、20歳から15年もの間、毛呂本郷地区の「口取り」としてお祭りに携わっています。その櫻井さんに、この流鏑馬まつりの魅力や、15年も携わり続けてきた想いを聞きました。

聞き手・文:武田真那実

ずっと憧れていた「乗り子」になれた

武田 櫻井さんはいつから「出雲伊波比神社の流鏑馬まつり」に関わっているんですか?

櫻井さん 最初に関わったのが、小学6年生のときです。流鏑馬まつりの「乗り子」にならないかと声がかかりました。そこから3年間、3の馬、2の馬、1の馬の「乗り子」を務めさせてもらい、20歳から「乗り子」や馬のお世話をする「口取り」という役を15年やっています。

武田 15年はすごい! 「乗り子」はどうやって選ばれるんですか?

櫻井さん いくつかの条件があって、それをもとに担当祭礼区に住んでいる15~16歳ぐらいの男の子に声がかかるので、誰でもなれるわけではないのです。

武田 最初に、選ばれたときはどんな気持ちでしたか?

櫻井さん めちゃくちゃ嬉しかったです! それこそ小さいころから、おじいちゃんに毎年お祭りに連れてきてもらっていましたし、馬も大好きだったので、「将来は絶対に乗り子になるんだ!」と思っていました。

武田 「乗り子」の練習は、どんな感じでしたか?

櫻井さん 大変なことは色々ありますよ。まずは乗馬の練習からはじまります。その当時は、近くにあった乗馬クラブに通って、馬の乗り方とか、色々練習するわけです。

 

「乗り子」を経験したからこそのアドバイスも

武田 櫻井さんが15年も「口取り」をやり続けていられるのは、なぜですか?

櫻井さん やっぱり僕自身が、この「出雲伊波比神社の流鏑馬まつり」が好きだということ。それから、この故郷に恩返しがしたいって気持ちがあります。ずっとやりたかった流鏑馬に「乗り子」として乗らせてもらい、みんなで力を合わせて流鏑馬を奉納するという経験を通し、人間としても成長させてもらえたので。

武田 それがまた今年もやろうという原動力になっているんですね?

櫻井さん そうですね。20歳から毎年「口取り」をやっていくうちに、普段は関わらないような年配の方から、歳の離れた後輩まで、色んな世代と関わりがどんどん増えていって、街でも声をかけられたりするようになって。そういう人とのつながりも、「また今年もやろう」という気持ちになっているのだと思います。

武田 今は、「口取り」という役割ですが、具体的にどんなことをするんですか?

櫻井さん 分かりやすく言うと、「乗り子」がお殿さまで、我々は家来です。3つの地区が源氏・藤原氏・平氏に色分けされていて、それぞれの地区ごとに「乗り子」が乗る馬が1頭ずつ用意されます。僕たち「口取り」はその馬のお世話やお祭りの祭具を作ったり、「乗り子」のサポートをやったりします。

武田 櫻井さん自身が「乗り子」だったからこそ、アドバイスもできますよね?

櫻井さん そうですね。流鏑馬って、馬上から弓で的を射るだけだと思うかもしれないですが、それ以外にも扇子を開いたり、餅を使った芸など、いろいろな馬上芸をやるんです。しかも、当日一発勝負です。だから、「乗り子」も緊張しているので、「こうやったらうまくいくよ」なんていうアドバイスをして、リラックスさせていますね。

武田 一発勝負とはすごいですね!

 

馬をいかにきれいに出すかが、見せ場

武田 「口取り」の見せ場はどこですか?

櫻井さん 我々の一番の見せ場は、流鏑馬の芸をする馬場※1へ馬を出すところですね。「乗り子」が乗った馬をいかにきれいに出すかがポイントで、馬が暴れないように手なづけて、早足ぐらいで出すのが美しい姿です。しかも今年、僕たちの地区は、1の馬(源氏)というリーダーの馬になるので、すべての見本となってやらなければならないんです。

武田 馬への指示は「乗り子」がやっているんですか?

櫻井さん 基本的に馬への指示は「乗り子」がやっていますが、僕たちは馬がきれいに走り始められたり、しっかり止まったりできるように「乗り子」が出す指示をサポートしています。

武田 「口取り」って大切な役目なんですね! 失敗することもあるんですか?

櫻井さん 僕の後輩は、去年のお祭りで馬を出す際に、すっ転んじゃったね…… (笑) 生き物が相手なので、当日になってみないと、何が起こるか分からない。まぁ、そういうところも見どころですね。

武田 馬をどうやって、手なずけているんですか?

櫻井さん 10月22日に馬がここに来て、そこから稽古始めになります。僕らは泊まり込みで、毎日馬の世話をしながら、お祭りの準備をしています。

▲流鏑馬で乗り子が乗る御神馬のための馬宿

武田 3地区それぞれが1頭ずつ馬を走らせるという話でしたが、他の地区には負けたくない!などのライバル心はあるんですか?

櫻井さん 口には出さないけれど、どこにも負けたくないと思っています。3頭とも同じ芸をするので、「自分の馬を一番きれいに見せたい」というライバル意識は、当然あります。あと、お祭りの前日に各地域の顔合わせがあって、ガチで飲むっていう負けられない戦いがある(笑)

武田 すでにそこから勝負が始まっているんですね?(笑)

櫻井さん まぁそういうことですね。でも、知らない人が見たら引いちゃうぐらいの勢いだから、本音を言うとちょっと行きたくはないかも……(笑)

武田 ところで毛呂本郷地区の「口取り」は、若くてカッコいい方ばかりですよね!

櫻井さん 「口取り」はだいたい10名ぐらいですが、平均年齢で言うと27~28歳ぐらい。21歳の「口取り」もいるので、他の地区と比べると、毛呂本郷が一番若いと思います。

武田 そんな中で櫻井さんは、みんなのお兄さん的な存在なのですね?

櫻井さん まぁ僕は、15年も「口取り」をやっていますから(笑)こんなに長くやっている人は今までいないですよ。もちろん、馬という生き物が相手なので、危険も伴いますし、緊張感は必要です。そのため、後輩には厳しくするところは、厳しくやっています。

武田 他にお祭りの見どころは、どんなところですか?

櫻井さん やっぱり「乗り子」の馬上芸だと思いますよ。弓を射るだけでなく、餅やみかんをまいたり、3本の扇子を使った芸を披露するなどバリエーションがたくさんあるので、内容が濃いと思います。ここまでいろんな芸をする流鏑馬まつりは、他にない気がします。

 

今年限りで引退を考えている。だから最後はみんなで祭りの感動を味わいたい

武田 今までで思い出に残っているエピソードってありますか?

櫻井さん 思い出はいっぱいあるし、あげたらキリがない。それぐらい毎年、失敗も含めていろいろありますよ。でもそれも今年限りで、「口取り」の引退を考えているので、そういった話は同じ地区の仲間たちにはちゃんと伝えていきたいなと思っています。自分ができることは全てやって後輩に残していきますよ……(笑)

武田 えっ⁉ 引退されちゃうんですか⁉ ここまで長年やってこられたのに?

櫻井さん いや、もうやるだけやってきたので、そろそろ卒業させてよって気持ち(笑)。だって、人生の半分をこの祭りに捧げてきたんですよ。

武田 すごいですよね。ちなみに最後はどんな気持ちで、お祭りに挑みたいですか?

櫻井さん うまく言葉にはできないけれど、本当に惹きつけられるお祭りなんですよね。朝も早いし、辛いことも大変なこともたくさんあるけれど、最後に流鏑馬を奉納した時の感動は、言葉では言い表わせないです。だから、最後はみんなで楽しんで、笑って、泣いて、祭りの感動を味わいたいと思っています。

武田 でも櫻井さんのことだから、また来年も参加しているかも⁉

櫻井さん いや、いや。それはね、もう絶対ない(笑)

武田 当日も頑張ってくださいね!本日はありがとうございました。

 

「乗り子」として3年、そして「口取り」として15年という長い間、この「出雲伊波比神社の流鏑馬まつり」を支えてきた櫻井さん。いよいよ11月2日・3日で開催になります!ぜひ、今年フィナーレを迎える櫻井さんの雄姿を応援しつつ、流鏑馬まつりの熱気を体感しに行ってみてはいかがでしょうか。

《注釈》

1. 馬場(ばば):流鏑馬を行ったり、馬上芸を行う場所