秩父夜祭インタビュー

4年に1度の晴れ舞台でいつかは主役に。38歳にして、伝統歌舞伎に初挑戦!

本町町会 青年部所属

新井 隆広さん

日本三大曳山祭の一つに数えられる「秩父夜祭」で行われる「屋台歌舞伎」。今年は「本町(もとまち)」町内会の有志により、江戸伝統歌舞伎の「白浪五人男(しらなみごにんおとこ)」が上演されます。その演者の中で、今年助役としてデビューする新井さんに「屋台歌舞伎」の面白さや、裏話を聞きました。

聞き手・文:武田真那実

伝統歌舞伎の助役として、祭りを盛り上げたい

武田 「秩父夜祭」では歌舞伎も上演されているんですね。小さい頃からこの歌舞伎を見てきたんですか?

新井さん そうなんです。毎年、歌舞伎は屋台町会の当番制で、上演されています。ただ、小さい頃の記憶だと「秩父夜祭」は見てはいたんですが、正直、歌舞伎を見た記憶がなくて……。約14年前に秩父に戻ってきて、本町町会青年部に入りお祭りに携わるようになって、初めて知りましたね。

武田 今年は、歌舞伎の役を演じられるということですが。

新井さん はい。「本町(もとまち)」の屋台で行われる屋台歌舞伎で、「白浪五人男(しらなみごにんおとこ)」という演目をやるのですが、私は今年、その中で5人いる「捕手(とりて)」のうちの1人を演じます。

武田 伝統歌舞伎を演じるとはすごい! ちなみに「捕手」は、どんな役ですか?

新井さん 「白浪五人男」は5人の義賊(ぎぞく)とされる盗賊なのですが、その盗賊を捕まえる助役(主役の演技を助ける脇役のこと。助演)です。本来の歌舞伎では捕手が20人ぐらいいるんですが、屋台歌舞伎では、5人の捕手で捕まえに行くという話です。

それぞれの主役の屋号にも特徴がある

武田 屋台歌舞伎は、いつ、どこで見られるんですか?

新井さん 「秩父夜祭」は2台の傘鉾(かさぼこ)と4台の屋台が曳きまわされるのですが、そのうちの一つの屋台は12月3日の午前中に「秩父神社」の境内まで曳かれ、屋台の両端に舞台を設置して、歌舞伎用のステージに組み替えるんです。そこで屋台歌舞伎を13時ころから上演します。

 

武田 屋台歌舞伎は毎年見られるんですか?

新井さん 「秩父夜祭」には4つの町会が参加していますが、屋台歌舞伎を担当するのは1年に1つの「屋台町会」のみです。1年ごとに各町会が交代で演じます。町会によっては、子どもたちが中心となった歌舞伎を演じたり、我々のように大人が演じたりします。なので、毎年見ることはできますが、演目は各町会ごとに異なります。本町が当番になっている際は、「白浪五人男」の演目を披露しています。なので、「白波五人男」という演目がみられるのは、4年に1回だけということになりますね。

武田 それは貴重ですね。そもそも、屋台歌舞伎をやろうと思ったきっかけは?

新井さん 普段からお世話になっている町会の先輩方を盛り上げたいという想いがありましたので、手を挙げました。もちろん、4年に1度の舞台に立ちたいという憧れもあります。でもそれより、自分が「本町」の青年部に所属していて消防団もやっている中で、祭り以外でも普段から大変お世話になっている一世代上の先輩の盛り上げ役をやりたいという想いの方が強かったですね。やはり、地元を盛り上げたいという思いは、先輩方も私たちも持っていますし。

武田 主役のみなさんとお知り合いなんですか?

新井さん もちろん。みなさん地元の方ですから。「日本駄右衛門(にっぽんだえもん)」を演じられるのは、地元企業の社長さんですし、「弁天小僧菊之輔(べんてんこぞうきくのすけ)」は設計士さんです。あとは消防団の先輩、動物病院の医院長、中学校の先生です。そうそう、主役となる方は、役名の入った名刺を作ったりしますね。

武田 新井さんは、今年が初舞台と聞いています。

新井さん はい、歌舞伎の舞台は初めてです。今年も40代の先輩が「捕手」をやるって立候補されたとき、「さすがにもう主役にあがっていただいて、そろそろ僕たちに役を譲ってください」っていいました(笑)。ちなみに「捕手」の5人中、4人が同級生です。

武田 同級生には負けられないですね。「捕手」役が決まった時の気持ちはいかがでしたか?

新井さん 過去に「捕手」を演じられた先輩から、「この役は面白いよ」と聞いていたので楽しみでした。でも実際やってみると、短いセリフしかないものの、言いまわしが独特な江戸弁で、かつ歯切れよくしゃべらなければならなくて……結構難しいですね。

主役5人の見得を切る場面が最高!

武田 歌舞伎は、誰に教わっているんですか?

新井さん 秩父歌舞伎の伝統を守っている「正和会(しょうわかい)」さんという地元の団体が指南してくださっています。今も毎週練習をしているのですが、最初は発声練習から入って、手の動きや指先、手の開きまで本格的な指導を受けています。自分自身もこの役をいただいてから、歌舞伎のことを勉強するようになりました。ちなみに当日、我々の歌舞伎のあと、正和会さんの歌舞伎も見られますよ。

武田 それは楽しみが2倍ですね! 新井さんは「白浪五人男」の見どころはどこだと思いますか?

新井さん 「捕手」が5人に迫った時に、1人ずつ名を名乗って、見得を切る※1場面は最高です! 例えば「日本駄右衛門」の場合は、「問われて名乗るのもおこがましいが、生まれは遠州浜松在…(略)賊徒の張本(ぞくとのちょうほん)日本、駄右衛門」という迫力のある演技でセリフを言うんです。舞台裏で鳴っている太鼓や三味線などは生演奏で、セリフや演技に音が合わさった瞬間は、本当に見ごたえありますよ。

武田 主役5人の中で、誰が一番好きですか?

新井さん 私は、南郷力丸(なんごうりきまる)が好きですね。声が低くて素敵です。途中で赤いふんどしをチラッとみせるんですが、実は南郷力丸は中学校の先生が演じていて、ふんどしに中学校の校章が刺繍されているって聞きました。主役をやると家庭科の先生が聞いたときに一生懸命、縫ったそうです(笑)。

武田 みんなが歌舞伎を支えているんですね。新井さんが演ずる「捕手」の見どころは?

新井さん 主役にやられる場面があるんですが、手をひねられたり、踏まれたり……。捕手であることを隠してなんとか盗賊を捕まえようとするのですが、結果やられてしまうという演技にはこだわっています(笑)。ぜひ見てほしいです。舞台がそれほど広くないので、舞台のうしろに落ちないかが心配ですが……(笑)。

武田 なるほど、他に見どころはありますか?

「捕手」の話ではありませんが、舞台が始まる前に、歌舞伎の役者たちが一列になって町内を練り歩く「おねり」も見どころですね。

いつかは主役にも挑戦したい

武田 当日は、どんな気持ちで挑みたいですか?

新井さん 実は、夏にやっている「秩父川瀬祭」では、行事長(ぎょうじちょう)という祭りの総責任者をやらせてもらいました。「秩父川瀬祭」では、祭りが滞りなく進行するよう、みんなに指示をだす立場だったのですが、今度の「秩父夜祭」では、助演という立場から、お世話になっている先輩たちの“盛り上げ役”に徹して祭りを支えたいと思っています。

武田 でもいつかは主役を演じてみたいという気持ちも?

新井さん そうですね。やっぱりお祭りが好きですし、いつかは演じてみたいという気持ちはあります。4年後は無理かもしれないですが、8年後ぐらいに……(笑)。

武田 最後に「秩父夜祭」の見どころを教えてください。

新井さん やはり、「秩父夜祭」と言えば、傘鉾と屋台の曳き廻しだと思います。特に、2日は町巡りをしている最中に、町会の屋台同士がすれ違う場面も見られると思います。夜は、本町の大通りを“ぼんぼり”を付けた屋台同士がすれ違うので昼とはまた違った風情があります。あとはクライマックスの3日の夜、「団子坂(だんござか)」を順番にあがっていき、花火が打ちあがる瞬間です。12月は空気も澄んでいるのですごくきれいに見えると思います。

武田 見どころ満載ですね! 本日はありがとうございました。

「本町」町会による「白浪五人男」は、秩父夜祭のクライマックスが迫る12月3日の13時ごろに秩父神社で上演されます。主役5人、そして「捕手」の1人を演じる新井さんの白熱した演技や、鳴り響く鳴物に酔いしれてみませんか?お見逃しなく!

 

《注釈》
1、見得を切る:役者が演技の途中、感情が盛り上がった場面で、静止してにらむようにして見得(決め顔)のポーズをとること。